「天気予報士は天気予報を外せば、責められるのに、証券アナリストは当然のように投資判断を外す」と言われたことがあります。まさにその通りと思いました。
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アナリストの最も重要な仕事は正しい投資判断
証券アナリストの重要な仕事は、「株価判断」です。アナリストレポートを執筆するセルサイドにとっても、自分で運用するバイサイドにとっても、「上がる株」あるいは「下がる株」を正しく判断することが一番重要です。
私も長い間、「パフォーマンスが良いこと=優秀なアナリストである」、言い換えれば、「パフォーマンスさえ良ければいい」と考え業務に励んでいた時期がありました。今でもその考え方は変わりありません。アナリストにとって、パフォーマンス、すなわち「稼げるかどうか」は、非常に重要なことです。
しかし、稼ぐこと以外にも、証券アナリストの社会的な役割は多くあることを次第に学びました。急速なスピードで進歩するAIに代替される可能性や「社会から証券アナリストがいなくなればどうなってしまうのか」以下、お話していきます。
・アナリストは企業と投資家の情報格差を解消することができる
証券(株式)市場においては、「資本の借り手である企業」と「資本の貸し手である投資家」との間での「情報の非対称性(格差)」が発生します。株式売買にあてはめてみると、「売り方と買い方では、保有する情報の質も量も異なる」ということです。アナリストは、この情報の格差を解消するという重要な役割を担っています。
情報の非対称は何故、問題なのか?
この投資家と企業家の間の情報の非対称が生み出す問題の一つとして、「逆選択」が挙げられます。情報格差が存在することで、コストがかかり、良い投資家がいなくなり、悪い投資家だけが残ってしまいます。言い換えると、「取引前の「情報の非対称」により→良いものと悪いものが混在→その品質を調べる費用がかかる→良い投資家は市場からいなくなく→市場からすべての企業が退出」してしまうという市場崩壊につながる可能性があるからです。
※もう少し違う例えをするならば、加入条件がない保険をイメージしてみると分かりやすいでしょう。過去の病気歴などにかかわらず、誰でも加入できる保険には、どのような人が加入するでしょうか?おそらく健康で元気で病気の経験がない人は、加入条件が厳しい、保険内容が豊富な保険を選択するのではないでしょうか。すなわち、誰でも加入できる保険においては、「健康な人(質の高い市場参加者)」は加入せず、「病気歴がある人(質の悪い市場参加者)」のみとなってしまいます(健康・不健康という例については分かりやすくするためだけに用いた言葉とご理解ください)
企業はアナリストを中心とした投資家と十分に対話を行います
アナリストは、企業と話をする中で、その戦略や方向性が間違っていないのか、達成可能なのか、様々な判断を下しながら、その事実と見通しを市場参加者に示します。ITの発達により、以前とは比べ物にならないほど、情報格差は縮小していますが、今なお、企業と投資家(専門的な機関投資家だけでなく素人の個人投資家を含む)の情報格差がゼロになることはないでしょう(完全市場仮説は成り立たないと思われる立場)。近年は、「フェアディスクロージャー」と言われるような、情報の公正性が一層求められるようになってきました。豊富な情報提供かつ公正で正確な情報発信は、、市場の信頼性を高め、資本市場の一層の成長のため、市場参加者間における情報の非対称を解消するため、アナリストは重要な役割を担っています
アナリストは、企業をモニタリングすることで、企業経営へプレッシャーを与えることができる
資本と投下している投資家は、常に企業を観察し続けることはできません。例えば、親がいれば宿題をする子供も、親の目がなくなれば遊んでしまうようなイメージです。社会人であれば、上司の前では真面目に仕事をするが、上司が席を外した途端にサボるといったイメージです。
これを情報の非対称によるモラル・ハザードと言います。
企業は、投資家からお金を出してもらうために、魅力的な経営戦略を語ります。その成長戦略を評価して、投資した場合、その戦略の実行過程を確認する手段を多くの投資家は保有していません。アナリストは定期的な企業との対話を通して、事業の進捗などを確認し、ある面では経営陣にプレッシャーを与えます。一人になれば遊んでしまう子供(企業)を見張り勉強させるイメージです。これは非常に重要な観点であり、会社が掲げる成長数値に対する達成確度を高める効果さえあると思います。
アナリストから企業へのコンサル的要素
アナリストは、開示情報や取材を通して企業について分析しますが、一方でその分析がコンサル的な要素となり、企業にプラスの効果を発揮することが多くあります。企業はもちろんその分野ではありますが、アナリストも同業他社を同様に分析し、マーケットに深くかかわる専門家です。企業価値を上昇させるための情報を提供することも多くあります。IRミーティングは、アナリストにとって一方的に情報を得て、外から分析するだけではなく、企業成長に貢献できる情報交換の場であると考えています。すなわち、企業と投資家における対話において、お互いのwin-winの関係を保ちつつ、資本市場を一層活性化させていけるものであると考えています。
AIに代替される可能性について
株価パフォーマンスという点においては、アナリストはAIに勝てるのか、私には自信がありません。少なくとも莫大な情報を読み込むという点では敵うことはないでしょう。ただ、過去のデータ量が少ない分野において、あるいは、分断的な事業の発生、VaRリスクなどにおいては、AIの限界もありそうにも思っています。これからは、これまで以上に、判断力によりプレゼンスを高めていかなければならないと気を引き締めています。
取引所に決算短信を取りに行っていた頃は、誰より早く手に入れ、走って帰ることで、「1番に情報を発信する」ことがひとつのプレゼンスだったかもしれません。誰よりも早く情報を発信する「早耳アナリスト」は、もうすでにその価値を失いつつあります。これからは、事実を正しく伝えるとともに、その事実を正しく活用した、独自の判断、分析が最も重要になってくるはずです。
少し長くなりましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございます。まだ未熟なアナリストではありますが、市場が小さくクローズであるがゆえに、あまり知られていない私たちの仕事について、有益な情報を発信できるよう記事を執筆しています。ご指摘・ご意見など、お気軽にコメントを残してください。