「天気予報士は天気予報を外せば、責められるのに、証券アナリストは当然のように投資判断を示す」と言われたことがあります。まさにその通りと思いました。
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証券アナリストの重要な役割
証券アナリストの重要な仕事は、「企業価値の判断」です。
アナリストレポートを執筆するセルサイドにとっても、自分で運用するバイサイドにとっても、「上がる株」あるいは「下がる株」を正しく判断することが一番重要です。
私も長い間、「パフォーマンスが良いこと=優秀なアナリストである」、言い換えれば、「パフォーマンスさえ良ければいい」と考え業務に励んでいた時期がありました。
今でも、「パフォーマンス」が最も重要であると考えています。
しかし、「稼ぐこと」以外にも証券アナリストの社会的な役割は多くあります。
アナリストが担っている重要な社会的役割について、以下3つのポイントをお話します(1:情報格差の解消、2モニタリング効果で成長確度を高める、3コンサル的要素で企業価値向上に貢献)
情報格差を解消できる
証券(株式)市場においては、「資本の借り手である企業」と「資本の貸し手である投資家」との間での「情報の非対称性」が発生します。
株式売買にあてはめてみると、「売り方と買い方では、保有する情報の質も量も異なる」ということです。
アナリストは、この情報の非対称を解消するという重要な役割を果たしています。
情報格差が生み出す「逆選択」の問題
この投資家と企業家の間の情報の非対称が生み出す問題の一つとして、「逆選択」が挙げられます。
- 情報格差が存在→コストがかる→良い投資家がいなくなる→悪い投資家だけが残る
- =取引前の「情報の非対称」→良いものと悪いものが混在→その品質を調べる費用がかかる→良い投資家は市場からいなくなく→市場からすべての企業が退出」
- →市場崩壊につながる可能性があります
※もう少し具体的なお話をすれば、加入条件がない保険をイメージしてみてください。
誰でも加入できる保険に加入するのは、どのような人でしょう?
病気をしたことがない健康な人は、加入条件が厳しく条件が良い保険を選択するはずです。
すなわち、誰でも加入できるには、「健康な人(質の高い市場参加者)」は加入せず、「病気歴がある人(質の悪い市場参加者)」のみとなってしまいます。
(健康/不健康、質の良い/悪いという表現は、解説のために利用しました。ご理解ください)。
アナリストは企業との対話で情報格差を解消
この企業と投資家の情報格差を解消することで、アナリストは「逆選択」の問題を解消します。
企業との定期的なミーティングを通して、企業の調査・分析を進め、公正な立場でその判断を示します。
近年は、「フェアディスクロージャー」と言われるような、情報の公正性が一層求められるようになってきました。
市場の信頼性を高め、資本市場の一層の成長のため、市場参加者間における情報の非対称を解消するため、アナリストは重要な役割を担っています。
モニタリング効果で成長戦略の達成確度を高める
資本と投下している投資家は、常に企業を観察し続けることはできません。そうすると、投資家の目がなくなった企業が、手を抜いて仕事をしてしまうリスクが生まれます。
例えば、親がいれば宿題をする子供も、親の目がなくなれば遊んでしまうようなイメージです。社会人であれば、上司の前では真面目に仕事をするが、上司が席を外した途端にサボるといったイメージです。
これを情報の非対称による「モラル・ハザード」と言います。
企業は、投資家からお金を出してもらうために、魅力的な経営戦略を語ります。
その成長戦略を評価して、投資した場合、その戦略が正しく実行されているかを確認する手段を多くの投資家は保有していません。
アナリストは定期的な企業との対話を通して、事業の進捗などを確認し、ある面ではプレッシャーを与えます。
一人になれば遊んでしまう子供を見張り勉強させるイメージです。
これは非常に重要な観点であり、会社が掲げる成長数値に対する達成確度を高める効果があります。
アナリストから企業へのコンサル的要素
アナリストは、開示情報や取材を通して企業について分析します。
そして、その分析がコンサル的な要素となり、企業にプラスの効果を発揮することが多くあります。
企業はもちろんその分野に精通する専門企業ではありますが、アナリストも同業他社を含めた担当セクターを深く分析し、マーケットに深くかかわる専門家です。
企業価値を上昇させるための情報を企業に提供できることも多くあります。
すなわち、企業と投資家における対話を通して、お互いのwin-winの関係を保ちつつ、資本市場を一層活性化させていけるものであると考えています。